Saturday, March 5, 2011

山口洋佑さんとのインタビュー

The Rock God Still Sleeps
by パトリック・ツァイ
翻訳:小嶋 真理

English

僕の親友の画家、山口洋佑について客観的に書くのはとても難しいけれど、僕にとって身近な存在だからこそ、彼について理解している部分は多いんじゃないかな、と思います。

僕の知っている山口洋佑についてまとめると、こんな感じになります。

• うねうねした長髪と口ヒゲで、ジーザスのような見た目。
• 食べる時はいつも必死で、食後はいつも歯かヒゲに食べ物が挟まっている。
• パフュームのファン。洋佑はあまりすれた感じのしないあ〜ちゃんが大好き。
• 30歳過ぎてからスケボーを始めたという遅咲き君。よく転ぶが、傷口砂利まみれ、流血しつつもすぐ立ち上がり、少年のような笑顔を振りまくさわやか青年。
• 気取ったり、自分を大きく見せるような事を全くしないから、とても話しやすい。

そして何よりも、洋佑は東京で最も注目されている新鋭の画家の一人であるということ。彼の柔らかく遊び心溢れる絵は、アメリカ出身のミュージシャンであるダニエル・ジョンストンの音楽を彷彿させます。ジョンストンの音楽のように洋佑の絵は、想像で造り上げた独自の世界観で埋め尽くされています。しかし、それは夢のような世界であると同時に、現実味も帯びているのです。


今朝、洋佑へのインタビューのために待ち合わせ場所の駅に到着すると、彼はすでに駅の改札口前で僕を待っていました。東京では珍しく雪が降っていたので、洋佑の必需品である彼自身でペイントを施したスケートボードは持ってきていませんでした。それにしても、滅多に雪なんて降らないので、なんだか今日は特別な日のような気がしました。

僕らは駅の近くにあるファミレスのバーミヤンに向かう事にしました。到着すると、レストランはガラガラ。やはり朝10時から中国料理を食べようと思う人はあまりいないんだなぁと実感。

僕は、インタビュー前のウォーミングアップとしてプアール茶を一杯注ぎ、その中にミルクと砂糖を入れました。そんな僕の様子を見て興味津々の洋佑、そのお茶、一口飲んで良いかと聞いてきたので、どうぞ、と進めました。彼は一口飲んだ後、苦い顔をして、あっ、これ僕の好みじゃないかも…とつぶやき、自分のカップにお茶を注ぎました。 そして、インタビューが始まりました。

僕はまず最初に、一番難しい質問をしてみました。
「ヨウスケの描く世界はどんなものか説明できる?」

「えぇ〜?僕の世界…?英語で??」洋佑は言いました。
*注:このインタビューは全て英語で行われました。

そうだよ、と僕は頷きました。


僕が初っ端から漠然とした難しい質問をしてしまったので、 彼は答えに詰まってしまいました。謝罪を入れ、先ずは簡単な質問から聞き始める事にしました。
「好きな色は?」

「ダークブルーかなぁ。赤は好きじゃない。スモーキーな色も好きだなぁ。僕はあんまりパレットを洗わないから、いつも色を混ぜちゃう。古いのと新しいのを。」洋佑は答えました。


彼の作品は繊細で、彼が使う色も繊細です。彼の水彩画は色味が暗い感じに仕上がるのですが、恐ろしい、悲しい、という雰囲気はありません。彼が描き出す世界は何か悪い事が起きる前兆のように見え、そこに描かれた人物はどこか塞ぎ込んでいて憂鬱そうに最初は見えるかもしれません。でも、その景色の中に、場違いな滑稽さが滲みでてくるのです。彼のユーモアのセンスは、まるで映画監督のウェス・アンダーソンのようです。両人とも、登場人物の悲劇をまるで遠くから客観的に見せる技を持っています。人の不幸を笑うなんて嫌な奴だと思われるから大声では笑えない、でもやはり面白いからクスクスと笑いが止まらなくなるようなユーモアを見せてくれるのです。


以前、洋佑が発行したジンの紹介文を書いてほしいと頼まれたので(昨年9月頃リリースされたもの)、僕は下記のように綴りました。

“apathy(アパシー)” とは「関心のない~」、「興味がない~」の意。「夜国」と名付けられた山口洋佑の新しい本の登場人物は、皆このような雰囲気を持っているように思える。スフィンクスのようなマジカルなクリーチャーを前にしても、それと対峙する人物はまるでパン切れでも見るかのような無関心さである。その麻痺した感覚に一筋の光が差し込む。
江戸時代に想像された架空の国。彼はその日の射さぬ場所に自分の“夜国”をつくりだす。”


僕は、彼にとても聞きたい質問があったので問いかけてみました。


「なんでヨウスケが描く人物はみんな、塞ぎ込んだように見えるのか教えて。」

「僕の描く人物はみんな、塞ぎ込んでいるというより、もっと中立的な立場にいるんだと思うよ。描かれた人物の心境をどう感じ取るかは、見る人によって違うかんじゃないかなぁ。」

洋佑は彼の新しい個展、『Sleep On, Beloved – ねむれいとしきひとよ』(2/18〜2/23まで新宿眼科画廊にて開催)のために作った本のサンプルを見せてくれました。この展示、そしてこの本の中心となる絵は、石で造り上げられた神が機械にワイヤーで繋がれ眠っている姿を描いたものでした。彼の前作「夜国」のように、別世界、別の次元に、現実世界が混じり込んでしまったような景色が詰め込まれていました。そして彼は、有形の神、サイエンティスト、世界の終わりについて話してくれました。( 洋佑は観た事がないそうでが、彼が教えてくれた話の内容はまるでアメリカで制作され日本でも人気だったドラマ、『LOST』のようでした。)


洋佑は展示の内容について教えてくれました。
「“Sleep On, Beloved – ねむれいとしきひとよ”というタイトルは、バッハの曲のタイトルでね、両親の家を尋ねた時に、展示で使える何かいい素材はないか漁ってたんだけど、ちょうど その時見つけたクリスマスソングの楽譜集の中から、たまたまこの曲名を見つけて。最初、今回の展示のメインとなる眠る神の絵とうまくリンクするからこのタイトル名を付けたけど、この曲は、まだ赤ん坊だったイエスについて歌った曲でもあるんだって。聖母マリアがまだ赤ん坊だったイエスに、彼が目覚めると、どのように人々の為に尽くすか知ってるけれど、今はまだお休みなさい、っていう内容の子守歌らしいよ。


もともと、この絵を書いている時に、ヒンドゥー教の神のビシュヌの事を考えつつ作業してて。ビシュヌは眠っている間、僕たちが暮らしているこの世界の夢を見てるんだけど、彼が眠りから覚めると同時にこの世界は消えてしまうという話をどこかで読んだ事があってね、彼がまた目を閉じると、また新たに世界が始まる。もし、そんな神が実際にいて、人間達が生き延びるために神を眠らせ続ける機械を作ったとしたら、面白いだろうなと思った。」


洋佑の絵には、デヴィッド・ボウイやデヴィッド・バーンなどが描かれていたりと、音楽の影響を強く受けていたと教えてくれました。最初、レコードジャケットのデザインが彼の興味を惹き付けたそうです。ピーター・サヴィルが超新星爆発後のパルサーの波形
を使いデザインしたJoy Divisionの“ Unknown Pleasures ”のカバーに、彼は大きな衝撃を受けたそうです。

そしてその、“ Unknown Pleasures ”のカバーについて、洋佑は教えてくれました。

「一目見ても、何が描かれているのか分からない。でも次第に、何が描かれているのか気になってしょうがなくなってしまう。そういうトリックがあるこのアルバムカバーには、昔も今でも大きな影響を受けてると思う。


エドワード・ホッパーの絵にもすごく影響されたなぁ。彼の絵はパッと観たときは普通に見えるけど、徐々に何かがおかしい、と感じ始めちゃう。でも、何がおかしいかは分からない。
ホッパーに影響を受けている映画監督のデビッド・リンチも、映画のシーンで、一見メインストーリーとは関係ないような不協和音のノイズが入り交じるシークエンスが続いたりするけれど、そういうところの影響は大きいと思う。

何かが起ころうとしている雰囲気は、僕にとって、特に、僕の作品の中ではとても重要な部分だと思う。僕は、“何が起こるか”というのにはあまり興味がなくて、その何かが起こる直前、結果が分かってしまう直前の瞬間に、すごく惹かれちゃう。もし何が起こるかが分かってしまったら、観る人は予知したり想像したりする必要がなくなってしまうと思う。もし、メインイベントが起こる直前の瞬間を捉える事ができたら、そのストーリーは何通りにでも展開できるよね。そんで、それは観る人の想像に繋がるようになると思う。皆がそれぞれ違うストーリーを持つ事ができるんじゃないかな。」


僕は、洋佑に幼少時代について聞いてみました。彼は埼玉で育ったのですが、 7歳の時に、彼の父の仕事(飛行機のエンジニア)の関係でイギリスの田舎町へ一家揃って引っ越し、3年間過ごしたそうです。

そこで僕は、イギリスでの生活に馴染むのは大変だったかどうか聞いて見ました。

「いや、大変じゃなかったよ。」彼は答えました。
「サッカーがそこそこできたから、沢山友達ができた。みんな、ファミコンをするために僕の家にいつも遊びに来てたよ。その時ゲームをやりすぎたから、視力がすごく落ちちゃった。」

「何か作ったり、クリエイティブなことはしてた?」僕は聞いてみました。


「縫い物かな。コウモリやモグラの縫いぐるみを作ったり。なんでそんなもんを作っていたのかは分からないけど。絵も沢山描いたなぁ。日本で育った男子と同じで、ジャンプに連載されていたキン肉マンやアニメのガンダムにもかなり影響を受けたよ。だから、いつも絵を描いてたなぁ。」

その後、洋佑は帰国することとなり東京へ引っ越し、高校では音楽に没頭、そして大学で法律を学んだそうです。なぜ彼が、法律を学ぶことにしたのか疑問に思っていると、彼は理由を教えてくれました。

「その頃はあまり何も考えてなかったってとこもあるかな。社会の仕組みを理解する事ができるから、ちょっと法律に興味があって、でも実際のところ、目的は明確じゃなかったよ。」彼は笑い、続けました。
「日本の教育のせいかなぁ。高校行って、良い大学に入って、良い会社に就職する。僕もその通りの進路で生活してて。ほんと、その時は何も考えてなかった。」

「じゃぁいつから、何をしたいか意識するようになったの?」僕は問いかけました。


「音楽にとても興味を持った頃からかな。毎日すごくかっこいいレコードジャケットを眺めてたけど、ある日、自分自身でつくってみよう思って。」

現在、洋佑は主にフリーランスのグラフィックデザイナーとして仕事をし暮らしています。彼は僕の親友で、才能に恵まれ、とても優しくシャイで、クライアントにもすごく優しい(そのせいでちょっとお金に関してのやり取りが苦手)。彼は自ら創造するアートの純粋さを信じていて、それは、彼を素晴らしいアーティストとして成長させるのですが、アートを商業として売り出すビジネスマンとしてのスキルも必要とされる東京のアートの世界は、彼にとって厳しい所かもしれないな、と感じました。


でも、フリーランスデザイナーとしてまだ2年目、色々学んでいる最中なんだろうなと思います。フリーランスになる前は、デザイン事務所で働いていましたが、長時間拘束され労働するストレスから体調を崩したので退職したそうです。その次は、実際にデザインする事が出来る仕事に就いたものの、与えられた素材より、自分で作った方がもっといいもが作れるんじゃないかと思い、そして、以前から絵が好きだったこともあり、彼は絵画教室に通い始めたそうです。それが、今から4年前の話。

今、彼は自分自身で創造して生活しています。デザイナーとしての仕事は主に、水彩画と彼のスタイルを強く反映した手作りのフォントを織り交ぜたものとなっています。どこかで彼のデザインした音楽のフライヤー、ポスター、DMなどを見かけるかと思いますが、それを見かけたら、皆さんに是非とも大切にキープしておいて欲しいなと思います。彼のクライアントはどんどん増えており、最近では、装苑、ビームスへのイラストレーション、原美術館で行われたヤン富田のフライヤーデザインなどを手がけたそうです。



でも今の所まだ、生活していくのは大変。

でもまだ、彼の描いた石の神が眠っている限り、世界の終わりではありません。実際に、彼にとって全てはまだ始まったばかりです。今日、彼のスタジオを尋ね、新しい作品を拝見したのですが、今までで一番素晴らしいものだと思いました。静かだけれど力強い作品を20作以上仕上げ、洋佑は確実に次のレベルへと進んでいるようです。彼にとって今は、映画に例えると、ちょうど何かすごいことが起ころうとしている直前、ちょうど見所となる場面なんじゃないかな、と思います。この展示会で、絵が沢山売れて、洋佑がお金持ちになるかもしれないし、クライアントが沢山つくかもしれないし、パフュームのあ〜ちゃんとデートできるかもしれないし、何が起こるかはまだ分からないのです。


山口 洋佑さんのウェブサイト
Email: lovesickblues@y2.dion.ne.jp

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